虐待はどうやったら防げるのか~私の提言~藤澤昇さん

岩手にある児童養護施設、社会福祉法人岩手愛児会「みちのく・みどり学園」の前園長、
藤澤昇さんは、50年近く、児童養護施設で虐待を受けた子どもたちを見続けてきました。
痛ましい虐待の事件を耳にするたびに、何か私たちにできることは無いか、と問い続けている人も多いと思います。
藤澤さんに、児童虐待解決の糸口を探るべく、話を聞いてみました。

児童虐待に接してきた49年間

みちのく・みどり学園は、家庭で養育が困難な2歳から18歳までの子どもたちを保護し、安心・安全な生活を支援する施設です。
子どもたちをより「家庭的な養育環境」で育てるべく、みどり園では、児童相談所と連携して、養護施設だけではなく、グループホームや一時保護所も併設しています。
また、近隣市町村のNPOと連携して、山村留学や夏、冬休みのショートステイなども地域交流しながらやってきました。その中心を担ってきたのが藤澤さんです。

藤澤
岩手大学教育学部を卒業して、49年間、みちのく・みどり学園で子どもたちを見てきました。子どもたちと生活を共にして現在に至ったわけです。

――虐待を受けて園に保護された児童たちは、どんな様子なのでしょうか。
藤澤
事件になるほど酷い虐待を受けてやってくる子どもたちが多かったのですが、そのうちにだんだん母親が育てられないという子どもたちがやってきました。いわば育児 困難な家庭から保護しなければならない子が増えてきたのです。
母親の側にも育てられないケースが出てきましたから、かなり深刻です。
母親との親子関係の悪化や、多様化した様々な家庭事情、地域のコミュニケーション不足など、現代は子育てしにくい環境が社会を覆って来ました。さらに貧困や再婚などの問題もあって、子育ては、確かに本当に大変な時代だと実感しています。
 子どもたちは我々大人たちより苦労したり、悩んでいたりして、ここにきていると思います。

――それは子どもたちが自覚しているということなのでしょうか 
藤澤
多分分かっていると思います。親のことも自分より心配していますよ。
母親も誰にも相談できないために、孤立、孤独の中での子育てです。虐待が親子心中にまで発展するような状況も見え隠れするのが現状です。

――これまでの経験からみて、子育て困難の背景には何があると思いますか?
藤澤
端的に言うと、人のつながりの希薄でしょうね。孤立している母親がいて、それを助ける人がいない。社会から疎外されていると感じている中で、心身ともに煮詰まってしまう、はけ口が子どもへと集中されて、虐待してしまうこともあります。

――そんなときに、どうしたらいいのでしょうか。
藤澤
やはり周りが「あなたは孤独じゃない”」ということを、いろいろな形で発信していくことだと思います。追いつめられた人は、つながりの線が見えなくなっています。「どうしてる?子育ては大丈夫?」と周りが気さくに声を掛けられるような雰囲気を作る。「私一人では、もうやっていけない」と正直に言える環境を作ってあげるなど、いろいろなツールを使って発信し続けるしかないと思います。
 

――育児は親だけの問題ではないと思いますか。
藤澤
子育ては、もはや社会全体が子どもを見るという時代に移っているのではないでしょうか。
虐待家族に限らず、一般の人でもみんなで、育児を見守り参加していく、そんな社会を作っていかなければいけないと思います。
行政も児童相談所も養護施設も、今までのような縦割りだけでは解決できないところまで来ていますから。
われわれ養護施設でも、きれいごとではなく、具体的な事実を交えて世の中に発信していくことが出来ればいいのですが、なかなか理解はしてもらえません。やはり虐待というと、見たくも聴きたくも知りたくもないというのがあって、身近に感じてもらえない。
行政も児相も施設も必死なのですが、増え続け、複雑化する虐待に、なかなか対策が追い付いていけないのです。第一、関わる人材があまりに少ないですから。

県内西和賀町の人々との交流で子どもに元気が戻った

藤澤
みちのく・みどり学園と同県内の西和賀町(旧沢内村)はさまざまな交流を続けてきました。子どもたちに家庭や地域での生活を体験してもらおうと、夏休みを利用して体験学習の場を提供してもらったわけです。 自然と当たり前の生活の大切さを地域のNPO法人{輝けいのちネットワーク}の皆さんの力を借りて、体験合宿をホームステイという形に発展させました。 慣れない雪かきや農作業を手伝ったり、地元の人から野岳太鼓を習ったりして、交流は続いたのが、時間を経て「地域養護」という活動に定着していきました。

――西和賀町での交流体験は、子どもたちの心を和ませるのにとても有効なケースだと思いますが。
藤澤
地域には地域の独自の文化があり、その文化を融合しながらやっていく事が不可欠でしょうね。むろん、それには地域の側にも一緒に動いてくれる人がいなければ、成立しません。
幸い西和賀には、私たちの交流に賛同してくれる人たちがいましたから、それを基盤にして、子どもはみんなで育てるという確固たる考えが定着してきたのです。
文化と自然の中に学園の子どもたちだけでなく首都圏などからやって来る子どもたちを受け入れていただいている。

地元の人と、交流していた子どもたち双方が、帰る時はお互いに泣くんですね。それくらい温かい交流があったんです。今はお年寄りが高齢化して中断していますが、こんな取り組みもこれからの地域の課題になって欲しいです。

一向に増えていかない里親制度

――ところで、家庭的養護が必要という割には、里親が進まないのはなぜでしょうか。

藤澤
児童養護施設が里親の委託窓口のセンターになるように動いてはいますが、なかなかすすまないのが現実です。
里親を支援する支援体制も児童相談所が担っているけれども、児童相談所は専門機関ですから、里親からのSOSが出たときに、対応ができない。そのときの救済機関はどうするのか。いろいろ不備な点もあります。
里親で子どもを養育している人がいたら、その近隣の人も、その里親をサポートする体制を持つ。「私もお手伝いするよ、何かやりますよ」という気持ちを持って行く。それが社会ですよ。そういう情報の発信ができていない。里親サポートのいろいろなツールがないと里親は増えていかないと思います。
今、里親に行くと、虐待された子どもがすぐに救われる、と思われていますが、そんなに簡単には解決できません。
里親も、直ぐ救う、という幻想に惹かれて手を挙げるけれども、実際子どもを受け入れてみると、こんなに大変だとは思わなかった、と頓挫してしまうんです。それくらい、痛めつけられてきた子どもたちが多いのです。まずそれを知らなければ……。
 里親の研修はあるのですが、研修はあくまでも座学なんですよ。実際に一緒に暮らしてみると、こんなはずではなかったという事もたくさんあるのです。

――バーンアウトしてしまった親が育てられなくなって、また施設に戻ると、1からやり直さなければいけませんよね。
藤澤
1からじゃないんですよ。0からになる。その上、その子がトラウマを背負ってしまえば、0よりももっと下から、また再度スタートしなければならないのです。虐待を受けた育った子が、数段上がったとしても、そこからリバウンドしてしまったら、もっと深みに落とされます。
人間のやることですから、もちろん失敗もあるかもしれませんが、子どもの大人に対する不信がそこまでいくと、やはり回復は難しくなってしまいます。

国が社会的養育をビジョンとして出しているので、将来的には増えていくと思うけれども、今はその過渡期だと思う。一向に進まないのが現実です。
進まないのには、児相の職員の人員不足ということもある。彼らは事件が起こると、その対応で忙殺されて、里親推進の仕事もできないのです。
様々に多くの問題を抱えていても、子どもは未来なのです。
我々、大人に突き付けられている問題は、魅力的な大人になるという事かもしれないと思っていますよ。人としての格を持った、ね。

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